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酒井順子『老いを読む 老いを書く』 『楢山節考』のおりん婆さんの精神はいつまで続く【緒形圭子】

「視点が変わる読書」第16回 『老いを読む 老いを書く』 酒井順子 著

 

◆1200年も前から「老人」は疎まれる存在であった!?

 

 第一章ではまず、過去に出された「老い本」から、日本人にとっての「老い問題」が探られる。取り上げられたのは、『楢山節考』深沢七郎(1957)、『恍惚の人』有吉佐和子(1972)、『いじわるばあさん』長谷川町子(196872)

 この三冊はいずれも、日本の高度経済成長期に出されている。衣食が足り、生活が向上し、誰もが明るい未来を信じていたこの時代に、『楢山節考』は「老い」と「死」の残酷さ、『恍惚の人』は「老い」による「痴呆」への恐怖、『いじわるばあさん』は家庭内での「老人」の孤立を描き、将来日本が抱えることになる「老人問題」をいち早く提起したと著者は指摘する。

 なるほどねぇ。『いじわるばあさん』など、単におばあさんがいじわるする漫画だと思って、げらげら笑いながら読んでいたが、その背景には息子たちに疎外される「老人」の悲哀があったのかと、認識を新たにした。

 ここからさらに著者は、『竹取物語』、『枕草子』、『今昔物語』、『徒然草』、『方丈記』といった古典にまで遡り、日本人の「老い意識」を探究していく。

 すると1200年も前から「老人」は疎まれる存在であったことが分かる。年をとって何もせずにいるという存在がうざく、かと言って若者に交じろうとする姿も見苦しいとさんざんな言われようだ。邪魔者扱いされるだけならまだいいが、『今昔物語』には『楢山節考』の原形となる、老いた親を山に捨てに行く話まで出てくる。

 こうした「老い」を厭い、「老い」を恐れる意識があったからこそ、おじいさんとおばあさんが不思議な力で子供を得て、最終的に幸せになるという『かぐや姫』や『桃太郎』といった日本の昔話が誕生したのだと著者は言う。

「むかし、むかし、おじいさんとおばあさんがいました」で始まるあの昔話は、辛い思いをして生きている老人を救うために生まれたのか!と納得。

次のページ何故、日本で「老い本」がこんなに出版されているのか?

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緒形圭子

おがた けいこ

文筆家

1964年千葉県生まれ。慶應大学卒。出版社勤務を経て、文筆業に。

『新潮』に小説「家の誇り」、「銀葉カエデの丘」を発表。

紺野美沙子の朗読座で「さがりばな」、「鶴の恩返し」の脚本を手掛ける。

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